承前。山の鼻から湿原に出て、一直線に続く湿原を歩いていく。正面に見えるのは燧ヶ岳だ。
振り返ると、岩肌を見せた至仏山が大きくそびえている。行程はすべて木道の上だけれど、人が少なく渋滞を起こすようなこともなかったので、立ち止まって写真を撮りながらゆっくりと歩くことにした。
湿原の沼、池塘に浮いているヒツジソウ。ひとつひとつが小さく目立たないけれど、ふと下を見ると、木道のあいだから覗けたりする。
草地にあふれているのは、サワギキョウの群落。とはいえ意外と目立たないもので、帰り道になって「こんなに生えていたのか」と気づくことも。
単体で寄ってみると、こんな形をしている。青紫の花というとトリカブトも見られるけど、そちらは形も生えている場所もずいぶん違う。
ミヤマワレモコウ。むかし福永令三の『クレヨン王国』という児童小説で、このワレモコウが取り上げられていて、いたく共感した記憶がある。それ以来、個人的にとても印象深い植物だ。
量で言えばどんな草花より群って見えるのは、アブラガヤの穂。地味な植物だけれど、風に揺れる群体は見ごたえがある。ただ、どうもこの実はアレルギーを起こすようで、近くを歩くと鼻がムズムズすると話している人がいた。ムズムズ程度で済むからいいのだけれど。
日帰ルートというと、湿原中央の竜宮というところまで行くのが標準的のようだけれど、今回はその手前の牛首分岐点のあたりでストップ、ベンチで昼食を取って、のんびりすることにした。これも人が少なかったからできたことだと思う。
湿原にはアブが多いけれど、トンボも多い。ベンチでくつろいでいると寄ってくる。写真はうまく判断できないけれど、翅の四角い黒点と胴体のトラ模様を見るに、ムツアカネだろうか?尾の模様が少なく、赤っぽすぎる気もするけれど。
綺麗に模様の出たトノサマガエル。もう秋の手前だけれど、オタマジャクシもけっこう泳いでいる。
1時過ぎにはもと来たルートを戻り、鳩待峠を目指す。たいした行程ではないけど、最後に山登りというのはけっこうきつい。これは山の中で見ることのできた、オオカメノキ(ムシカリ)の実。白い花から赤い実がなるのだけれど、8月末の時点ではやばやと黒く変色し、熟していた。
2時過ぎには鳩待峠に戻り、尾瀬を出た。それでも朝6時からなので、とても充実感がある。
帰りには片品村の道の駅『花咲温泉』に寄って、露天風呂を浴びた後は畳敷きにねっころがり、そば、ジェラートなんかを楽しむ。設備はとてもきれいで、サービスもシステム的な完成度が高くストレスをまったく感じない。料理も現地の野菜を使っているのが良くわかるものばかり。こんなところにこんな良質な施設があるとは思わなかった。
聞くと今はスキーシーズンはクルマが駐車場の外にあふれるほどの満員になるそうだ。道の駅ってことは国交省の支援している施設なんだろうけど、よくできた経営コンサルティングとかベストプラクティス集とかが完備されているのかな?
ライトな山遊びとして尾瀬を楽しむという意味では、まるっと5時前まで湿原に滞在しないで、後半をこの施設でくつろぐことにしたのは正解だったと思う。
帰り道、関越道の上里サービスエリアで、花火に遭遇した。
藤岡市の花火大会、それも市制60周年ということで、かなり大規模なものだったらしい。思わずカメラを向けた。手持ち望遠でブレブレのものしか撮れなかったけれど。
光ってから音がなるまで5秒ほどあったので、だいたい1.5キロほどの距離で見てたことになる。普通の花火大会ならラスト数発といった大きさのが、バンバン上がる。高く上がってくれる玉が多かったから、高速道路ごしでも楽しめたんだと思う。
終盤は大玉同時撃ちが多すぎて凄いことになってた。写真もたいがいわけわかんないけど、実際見える光景もこんな感じだった。久々に凄い花火を楽しめた。
旅運がいいというかなんというか、思いがけず良い温泉に花火までついてきて、宝くじに当たったような尾瀬遊びだった。でも、湿原は広い。きょう遊んだのは文字通りほんの鼻さき。まだ沼も山もある。もし次があるなら、ちゃんとロッジに泊まって遊んでみたい。