旅と模型

Gaso Line's "Travel & Build" weblog

千頭・井川・大井川鉄道の旅 Part1

 

祖母の見舞いも兼ねた帰省で、1日だけ自由に休める日ができたので、気分転換にと大井川鉄道のSLに乗ってみることにした。行って帰って1日の旅程だ。

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東京人が東京タワーに登らないように、大井川沿線に住む人はSLに乗らない。実際、SLの発着する新金谷駅に来たのは、幼稚園の頃以来だと思う。SLや短躯の電気機関車が車輛基地を出入りする昭和同然の光景が、日常として今も繰り広げられている。

例によって思いつきの旅行だ。夏休みの休日でもあるし、SLの切符が取れるかどうか不安だったが、9時57分のSL急行 "かわね路11号”は、発車20分前でも問題なく取ることができた。これが1本あとだと違うのだろう。ちなみにSLの切符は駅の改札ではなく、向かいの建物の大鉄トラベル窓口で取る。

ホームに移動し、じりじりと気温が上がるなか、どんな機関車に乗れるのかと待っていると……なんか凄いのが来た。

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夏休み特別列車、『実物大SLくん』。蒸気機関車C11 227を青で塗り直して、大鉄マスコットキャラクターのSLくんを、そのまんま再現してしまった。ヒネリのない名前もアレだが、デザインの凄まじさったらない。ギョロリとした目に赤い蝶ネクタイ。かわいさというより、どこか狂気じみたモノを感じる。戦前生まれの227号機も、まさか21世紀になってこんなコトになるとは思っていなかっただろう。

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こっくりとアブラのひかれた足回り。細かいところまでキッチリ青く塗装されてるのがまた芸が細かいというか、なんというか……。ともあれ、80年を経ってもこうやって現役だというのは、素晴らしいことだ。

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青い機体は、汽笛とともに新金谷を離れ、すぐに川沿いの緑のなかに吸い込まれてゆく。大井川鉄道はその名の通り、大井川の川沿いを上流に向かって登っていく路線だ。登り勾配が多いせいか、列車の最後尾には補助機関車として、電気機関車のED500形が連結されている。もともとはいぶき500形という型式で、工場内のセメント運搬に使われていた工業用車だ。大井川鉄道には、かつて日本の各地で働いていたさまざまな車両が集まってきている。

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乗った客車は最後尾、オハ35 435だった。これも戦前の、比較的大型の車両。大井川鉄道のSLには各車に名物車掌がついていて、ハモニカを吹きながらまわってきては鉄道の説明をしてくれる。青いビロードのクロスシートは、腰掛部分が取れるようになっていて、むかしの夜行ではこれを通路に並べてマット代わりに寝ていたそうだ。

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途中停車駅の家山を超えると、川幅は次第に狭まり、汽車はなんどか橋を渡る。白い河原に青い水面、緑の山々。古い客車だから扇風機すらろくに回らないけれど、かわりに開け放たれた窓から入り込む風がちょうどよい涼しさだ。トンネルも多く、長いトンネルの中では最後尾でも、煙の濃密なにおいが入り込んでくる。車掌にいわせれば、煤も「おみやげ」だそうだ。

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川を眺めてわずか1時間ほどで、列車は大井川本線の終点、千頭(せんず)駅に着く。旧中川根町の町役場のあたりだ。

千頭のターミナルから改めて見て、このSLの危うさのポイントに気づいた。目の上についたまつ毛だ。こんなのが蒸気シュポシュポやりながら走ってるなんて……。

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千頭駅にはほかにもさまざまな列車が、なかには露天で置かれている。こちらは北海道の北見から送られてきたSL、9600型49616号。ずいぶん野ざらしになっているようで、雨跡がしみつき、側面のデフレクター板も根元が錆びついている。手前は同じく廃車の電気機関車、E103。こちらは大井川鉄道オリジナルの戦後車両。

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西武鉄道から送られたという、E31型。4両が製造されて、そのうちの3両がここで露天保存され、じっと何かを待っている。

ここから更に上流に向かうには、路線を換えて井川線に乗ることになる。元は水源開発工事用の資材運搬列車だった井川線は、線路の幅さえ他の路線と同じものの、線路の周囲に取れる空間が非常に狭くなっている。そのため大井川本線とも直結せず、列車には井川線専用の車両が使われている。トロッコ列車かとみまがう、とても小さな赤い機関車だ。今回乗る列車はこれ。

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DD20形ディーゼル機関車4号機 "すまた"。

(続く)